もどかしい距離

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猫に連れられて、中庭の散策。 花と戯れて遊ぶ猫を、レンズ越しに眺めた。 隠れながら一緒に病院食を食べたり。 大好きな屋上で夢を語って、昼寝をしたり。 トシヤの顔には、かつての笑顔が戻っていた。 猫は嬉しかった。 自分の存在がトシヤに幸せをもたらしているのだと。 そう信じていた。 周りの大人たちは、猫の存在に気付いていた。 両親も、医者も、看護師も。 でもみんな気付かないフリをしていた。 検査結果は芳しくなかったから。 刻一刻と時は流れる。 抗うことも出来ずに。 幼くして逝く魂。 消えそうに震える命の灯火。 「秋が終わるまで…せめてもう少しだけ…」 望むことをさせてやりたい。 人々の願いも虚しく、再びトシヤの症状は悪化の道を辿る。
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