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屋上への暗い階段を昇るトシヤは、息も絶え絶えだった。
手すりにもたれ掛かり、一段、一段とゆっくり進む。
そんな姿を見るのが辛くて、猫は体を擦り寄せる。
トシヤは邪魔な猫の横腹を思いきり蹴り飛ばした。
鈍い痛みは猫に現実を教える。
それでも信じられなかった。
こんなトシヤは嘘だ。
屋上の扉。
開くと、暗い雲の隙間から今にも雪がちらつきそうだった。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
トシヤは吠えた。
そんな雲も、夢も、自分も…何もかも吹き飛ばしてしまいたくて。
雪が降りだす頃には、自分はこの世にいないのだろう。
終焉が間近に迫るにつれて、その事実は重くのし掛かってきた。
…サバンナは遠かった。
泣いた。
喚いた。
猫はそんなトシヤを黙って見ていた。
「…どうして僕なの?」
トシヤは猫に尋ねる。
「…どうして死ななきゃなんないの?」
そこにいるのは、たった12歳の少年だった。
この気持ちを、猫もトシヤに伝えたかった。
熱く焼けつくような。
説明しがたい、もどかしい気持ち。
けれど伝えるどころか、言葉すら自分の口から出てこない。
自分に言葉さえあれば…。
説明できなくとも、何らかのことを伝えられただろうに。
猫も吠えた。
一緒に泣いた。
できるのは一緒にいることだけだった。
「…さっきはごめんよ」
寒空の下で抱いた猫の体は、温かかった。
埋まらない一人と一匹の間の何かを、埋めてくれるような気がして。
一層強く抱き締めた。
それが全てだった。
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