7人が本棚に入れています
本棚に追加
猫は一匹だった。
いつも孤独だった。
病院の中庭、花壇の横のベンチに住み着いていたが、誰も猫に近寄らなかった。
その体は夜の様に漆黒の毛並みをしていたから。
あまりにもこの場所に似つかわしすぎて、気味悪がられていた。
道行く人に指差され、「誰かを迎えにきたのか」と睨まれた。
人々からの視線や罵声に腹を立てた猫は、いつからか…死者を見送ることが日課になった。
寝床の前に見える、西病棟の1階は血液疾患の病棟だった。
経過が良好な人もいれば、当然死に逝く人もいる。
11月の暖かいある日。
猫は見送る人を見定めようと、日光浴をしながら伺っていた。
そんな中…一人の少年に目がとまった。
年頃には似つかわしくない、閉塞的な白い部屋の中。
顔には生気はなかったけれど、澄んだ瞳だけはきらきらと輝いていた。
窓越しに見上げる、高い秋の空を映していた。
最初のコメントを投稿しよう!