狂い始めた未来

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猫は一匹だった。 いつも孤独だった。 病院の中庭、花壇の横のベンチに住み着いていたが、誰も猫に近寄らなかった。 その体は夜の様に漆黒の毛並みをしていたから。 あまりにもこの場所に似つかわしすぎて、気味悪がられていた。 道行く人に指差され、「誰かを迎えにきたのか」と睨まれた。 人々からの視線や罵声に腹を立てた猫は、いつからか…死者を見送ることが日課になった。 寝床の前に見える、西病棟の1階は血液疾患の病棟だった。 経過が良好な人もいれば、当然死に逝く人もいる。 11月の暖かいある日。 猫は見送る人を見定めようと、日光浴をしながら伺っていた。 そんな中…一人の少年に目がとまった。 年頃には似つかわしくない、閉塞的な白い部屋の中。 顔には生気はなかったけれど、澄んだ瞳だけはきらきらと輝いていた。 窓越しに見上げる、高い秋の空を映していた。
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