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「猫なで声でそーれ鳴けーっ、ニャーゴニャーゴ、ニャーゴニャーゴ! ご主人様に甘えてーっ、明日もー……ストップストップ、ストーップ!」
俺がそう言うと、それまで爆音が響いていた倉庫の中は、一瞬にして静まり返った。
「ちょっと、何で止めるのよ。折角ノッてきたのにさ」
シャロンはそう言っているが、俺の耳は聞き逃さなかった。
「おい、レンッ。お前また間違えただろ! 誤魔化そうったって、俺様の耳にははっきり聞こえてたぞ!」
レンを睨み付け、尻尾を垂直に立たせて怒号を響かせる。
それに対し、レンは他人ごとの様に前足でヒゲを触っていた。
「無理言うなズラ。肉球が邪魔で、上手くコードを押さえられないんズラよ」
ギターを下ろしながら言ったレンは、前足を地面に着けて大きな欠伸をしやがった。
堪忍袋の緒が、ブチブチと音を立てて切れた。
「馬鹿やろうっ、そんなんじゃいつまで経ってもインニャーズデビュー出来ないぞ!」
コンクリートで囲まれた倉庫が、俺の声を反響させる。
「まあまあ、落ち着くですぞ。ライブまで後一週間もあるんだし、慌てる必要は無いですぞ」
ドラムのスティックをスネアの上に置き、ひげ丸がゆっくりと言った。いつもの様に、かつお節を食べながら。
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