Ⅰ―序章 血染めの記憶と魔眼―

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 私は8歳より以前の記憶が全くない。  いわゆる記憶喪失と呼ばれるものである。 何が私の記憶を蝕んだのかは分からないが、生まれつき“壊す目”を持つ事だけは知っている。“壊す目”とは、視界に映る物を壊す事が出来るという不思議な能力らしいが、実際私が使うとなかなか歯止めがきかず、有りとあらゆる物を壊してしまう。  いつこの目が私に宿ったのかは知らない挙げ句そんな能力を持って生まれたのは家系でも私だけ。 誰に話しても信じてくれないし、私はどうすればいいか分からない状態だった。  だから、笑顔という偽りの仮面で私を覆う必要があった。 混乱している醜い姿を隠すために。  しかしそれは長く続かなかった。 何があったのか“目”が暴走して両親や兄弟を殺害してしまった。 客観的な視点から見れば犯行の際に使用した凶器などがなく、残された娘である私自身放心状態だった為か外部からの侵入者による犯行だとされ、犯人を捜索するという結果になった。  しかし私自身被害がなかったのかと問われれば否定出来ない。 偽りの仮面が壊れてなくなり、私は孤児院で生活を送る事になったからそう言えるのである。  その後は亡き父親の恩人である老夫婦に引き取られ、私は忘れかけていた家族の大切さを知ったのだが二人は不運にも旅先で起きた事件に巻き込まれ亡命した。  彼らが残した莫大な遺産は、今私が自由に使わせて頂いている。 いつ書いたのか遺書に『全遺産を雪梅に託す』と書かれていたからだ。  親戚一同にはさぞ羨まれただろうに当時中学生であった私にはそんなこと知る由もない。  当然、この世界よりももっと不安定な世界がある事も知らなかった。
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