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私のアパートは見た目は古いが内装は掃除が行き届いているせいか綺麗である。町外れのせいか住む人は少なく、このアパートに住むのは上に住む大学生のお兄さんと未亡人の女性が一人、あとは大家さんと私の合計4人だけである。
住人は皆穏やかな性格で、最も若い私に対しては特に優しくして貰っている。
前に同じ学校の男子が家に押しかけて来た時もちょうど買い物から帰ったその女性が私の身を守って下さった。
アパートの住人には不満などない。むしろ感謝してる。
ただ不満があるのは学校の方。
正直クラスメイトと話すことが億劫だった。
私の成績は常に上位、運動神経も下手な運動部員に比べたら全然良いし、生徒会の書記まで任命されている。
いわゆる優等生タイプなんだが、敬遠されまいと誰彼構わず上辺だけの友情を築いてきた。
だがそれにストレスや疲労感を覚えた私は、生きる意味さえ見失いつつあった。
逃げ出したい。その感情だけが私を支配している。
アパートの狭い一室の中で私は少し出掛けるふりをして、どこか遠くの街へ行こうと試みた。制服の上に真っ黒なコートを羽織り、トランク、というよりはスーツケースに財布と携帯電話、着替え数着と缶詰めなどの非常食が入った黄色い箱を入れる。ペンライトや手回しラジオも念の為入れておこう。あとは保険証や身分証などを一応持ち、通学用の革靴は鞄に入れてお気に入りの黒いスニーカーを履く。
私は胸まで伸ばした長い髪をまとめて帽子の中に隠し入れた。
忘れてはいけないのが鍵。防犯対策は抜かりなくしっかりと行う。
そこにちょうど良く大家さんが来た。
「天野さん、お出かけですか?」
「はい、ちょっとの間友人の家に泊まりに行ってきます。試験が近いから勉強を見て欲しいって頼まれているので」
作り笑顔に嘘。お世話になっているのに申し訳ない気持ちという罪悪感すら忘れて私は大家さんに一礼する。
「そうですか。行ってらっしゃい」
私は微笑み会釈した。
しばらくここには戻らない。けれど、いつか恩返しをしにひょっこり戻ってこようかと思う。
私は更に町外れの方へ歩み出す。
本当にこれが最善の選択なのかと考える間もなく私はただ逃げた。
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