2人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
何も起こらないことに不思議に思いうっすらと目を開くと雨龍という男は私に手を差し延べていた。
「お前の右目……殺傷の魔眼を宿しているだろう?」
「え……」
「俺が探していたのは、お前だ。俺は異世界からお前を探しに来た」
異世界から……信じられない単語が彼の口から飛び出す。彼は先ほどからペンダントから鎌のようなものを出したりと少々非現実的なことを目の前でやったりと奇妙だが、なぜ右目のことを知っているのだろうか。更に彼は続けて言う。
「お前が必要なんだ。俺と異世界へ来ないか?」
「どう、して……?」
私は差し出された手を見つめながら彼に問い掛けた。
「必要だと言わなかったか?」
「いえ、必要とかじゃなくて……明確な理由が、あるんですよね?」
すると彼は真直ぐ私を見つめた。ためらっているのか言葉をなかなか発さない。私はただ、待っていた。しかし私の一部は待つ事を嫌がった。
ズキン、と右目が突然痛み眼帯が破裂した。これは暴走の合図。両親を失った時も走った忌まわしい痛みが再発したのだ。止めなければ罪のない命をまた一つ消してしまう。
私はその場にうずくまり、手で目を押さえ、雨龍から身体を逸す。呼吸が荒くなり手のひらに激痛が走るが今はその痛みに気をかける暇はない。
「……どうしたんだ?」
「来ないで下さい!」
自分でも驚くような大きな声で彼に怒鳴った。手のひらは血で一杯になり、皮膚を伝う感覚が走る。
手から溢れる鮮血に気付いたのか彼は突然私の目を押さえる手を振り払い抱き寄せ、耳元で囁いた。
「落ち着け」
私は魔法にかけられたかのように目の暴走を止めることが出来た。何故だろう。
耳に触れた彼の息が私の神経を鈍らせたのだろうか。いつの間にか痛みさえ忘れていた。
最初のコメントを投稿しよう!