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彼は首からネクタイを外した。私の手から流れる血を止血すると鋭い目で私を睨む。やはり目付きの悪さが原因だろうか正直怖い。
「その力……自分も傷つけられるんだな」
「はい……というか……あの」
「なんだ?」
私は彼に言うのをためらった。正直非常に言いにくい。
「どうして私のことを知っているのですか?」
「殺し屋だからだ」
彼は予想通りの答えを即答した。ヴァイオリンのプロ奏者に見せかけて、殺すことを稼業にする人間なのだ。いや、死神だと彼は名乗っていただろうか。
「……もう時間がない。命令だ。俺と共に異世界へ来い」
「ちょっ……いきなりそんなこと言われても困るんですけど」
私は彼の爆弾発言に戸惑う。命令と彼は言った。今度はヴァイオリンを奏でている時とは違い殺気立った雰囲気を漂わせている。下手に行動することは死を招く。だが、今度ばかりは何も行動する暇さえ与えず彼は立ち上がり、私を睨んだ。
「時間がない。強硬手段に出させて頂く」
彼はそう言うと私の後頭部を殴り付けた。痛みが走るが意識はかすかにある。
「残念だが雪梅……タイムリミットだ」
彼が私に言った最後の一言はそれだった。朦朧とする意識の中で確かにそう聞こえ、視界が闇に覆われた。
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