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描妖と言っても、人に化け、驚かせたりするぐらいで、人を喰う、という大層なことは、出来ず、満月の晩にしか力も出せない。
満月の一夜以外、いっぱしの猫と別段余り変わりはないが、3つだけ違うことがある。
特別餌を必要としないことと、自分が大人と見なした段階で老いるのを止めることと、人の寿命ぐらい生きれることが普通の猫とは異質的な点である。
淡夜は、立ち上がった。その体躯は、屋根に立っている、と言う感覚を無くすほどしなやかに立つ。
「お月様あたしの歌、聞いてね。」
淡夜は、静かに瞼を閉じ、唄う。
『夜の沈黙が私を起こす 貴方の光を目一杯浴びる 愛しい優しい明かりが私の在処だから 欠けるその時まで時間よ、止まれ 貴方に送る泡沫の歌が唄い終わるまで・・・♪』
伴奏が無い歌声は、克明に闇に描きだされる。淡夜の音域が広く、甘い特徴のある声質は、時折切なさを感じされた。
淡夜は、いつも変化する時は月に歌を唄う。
「月夜の歌姫、か・・。」 ただ、今晩は一人、歌を聴いていたことに淡夜は気付かなかった。
『永遠の歌を 今宵は貴方の温もりの中で・・・♪』
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