第1部 猫の国の事情1

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緊迫した空気がこの場を完全に支配していた。 そして支配者は逃げるホワイトとそれに執拗に迫る白衣や作業着を着た研究員のような者達。 まだまだ若く、経験の浅い四匹は声を出し自らの存在をこの場に晒せるような行為ははばかれた。しかし彼だけは違った。長年の経験者らしく、そして上司として上に立つ者の威厳を持つ彼は堂々として名乗りを上げる。 そう、それが調査班へ向ける戦闘合図だ。 「てめぇら、よく聞け! 俺は第一調査班主任ダウルだ! 今からお前らを不法兵器開発の疑い及び殺猫(さつびょう)未遂の現行犯で連行する!」 声か高に宣言し、懐から白い紙を取り出すと突きつけるように見せつける。 ダウルが用意周到に準備していた連行宣言書を見て感動した翡翠はその勇ましい主任の姿を惚れ惚れと見た。 連行宣言書とは定期的に更新される宣言書で、犯罪を犯した者を連行する権限を具現化した物である。それは調査員なら誰でも申請し持つことが出来るが、具体的に罪状や証拠などを書類に書かないと貰えない仕組みになっている。しかし、ダウルのように主任になると一介の調査員とは違い簡単に下りるのだ。 ダウルと聞いて血相を変えるのはダウルが活躍していた時を知る者だ。その者達は我先に慌てて逃げ出す。驚かなくても調査班が来たと言うだけで戦意喪失した者も何匹かいた。だが、他の大勢の者達は更に戦意をみなぎらせ、各々が手にしている兵器や武器を構えホワイトと侵入者を問答無用の排除を開始する。 「はっ! やる気だけはあるようだな。 ホワイト! 貴様も数々の窃盗と不法侵入の罪で連行するから覚悟しとけ!」 その言葉にタマ、ライト、ヴァンは前に出て近くにいる者に攻撃を開始した。 「翡翠、お前も行け」 「はい!」 ダウルに促され翡翠も空気砲を抜いて駆け出す。 その時、背後を一瞬盗み見た。そして動体視力の良い翡翠は内容を確認してしまい背に汗が大量に流れ落ちる。 翡翠が見た物。それは、連行宣言書だと思っていた紙の内容だった。実はダウルが見せた物は西警察署の今月の昼食献立表だった。 連行宣言書と献立表は紙に同じように上に王国のエンブレムが、下には警察組織のエンブレムが描かれている。だから遠目には似ているように見えなくもない。 ダウルは連行宣言書を用意していなかったと言う事実に思い至りながらも翡翠は目の前の事に専念しようと頭の片隅に追いやった。
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