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母さんの命令を快く、
「イヤだ」
にっこり笑顔で断る。母さんは「はい?」と間の抜けた声を漏らした。
「今なんて言ったの?」
「だからイヤだっていったの」
「お母さんの言うことが聞けないっていうの」
「うん」
子猫と目を合わせないで睨みつける母さんに僕は即答する。
母さんの目が潤んで見えるのは僕の目の錯覚かな?
「いいから捨ててきなさいよ」
「ヤダ」
「さあ、早く」
「いやだ」
「す、て、て、き、な、さ、い」
埒が明かないな。動物嫌いの母さんのことだから捨てていくまで譲らないと思うし……よし、気が進まないけど動物嫌いを利用するか。
そうと決めたら行動あるのみだよね。僕は靴を脱ぎ捨てる。キャリーバックを床に降ろして中からヒョイと子猫を取り出す。
その子を母さんに向けてみる。
思った通り母さんは、
「な、子猫をそこから出してなにをするつもり」
と慌てふためく。慌てふためいている母さんを無視して歩きだす。
「ちょっと、大ちゃん! 子猫をわたしに近づけるのはやめなさいっ」
「断ります」
僕がやろうとしている行動に気付いた母さんは隣の部屋に逃げ出した。
陸上部で鍛えた僕の脚力についてこれるかな?
*
「ハァハァハァ……母さん、この子猫の飼い主が見つかるまで飼っていいよね」
「ハァハァハァ……す、好きにしなさい」
一時間の攻防の末、居間のソファーに力尽きてもたれ掛かっている僕に目の前のソファーで同じく力尽きている母さんは諦めた声をだした。
「それにしても母さん脚、速すぎだよ。陸上部で鍛えている僕より速いとはね」
荒くなっている呼吸を整えて体を起こした僕は太股に乗せている子猫を撫でながら正直な感想を漏らした。
子猫は気持ちよさそうに撫でられている。
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