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「ま、いいか。そういう気分なのかもしれないし。行こうか」
「はい」
僕は組んでいた腕を解いて優奈ちゃんと今度こそ昇降口に向かって歩き出した。
窓のガラスに映る雨は降り止むことなくむしろザーザーと勢いが増して降っていた。
*
「お、お待たせっ」
「早かったね」
「早いですぅ」
なぎさは陸上部である僕の目から見ても驚異的なスピードでここまで走ってきたのかハアハアと息を切らしている。
こんな速さがでるのならマネージャーじゃなくて陸上部に入部すればよかったのに。
今の速さなら国体も目指せるのに勿体ないなぁ。
あと廊下は走るな。下駄箱に貼られている張り紙にも廊下を走るなと書いているぞ。
なぎさは乱れたスカートの裾を綺麗に直して、髪の毛を手櫛(ぐし)で整えて僕に向き直る。
「それじゃ帰りまし……え、なんで幸宏がいるのよ。帰ったんじゃなかったの?」
なぎさは走りながら気付いてもよさそうなものなのに、もう一人下駄箱いるクラスメイトの男子――佐倉幸宏に気が付いたみたいだ。
野生の狼を彷彿(ほうふつ)とさせるような端整な顔立ちに鋭い目つき。身長は僕より少し高くて帰宅部なのにスポーツをしているような体つきをしている。
「帰ろうとしたときに雨が急に降ってきてな。傘を持っていそうな大地かなぎさがくるのを待っていたんだ」
幸宏は不機嫌な顔で答えた。
「待っていた?まさか、大地と相合い傘で帰るつもりじゃ…」
「大地が傘を持っているのならそういうことになるな…何か問題あるのか?」
「も、問題はないんだけど…」
なぎさはそう言って自分の指を絡ませる。僕にチラチラと視線を向けて目が合うと慌てて逸らすという動きをしていた。
へんなの。
「なぎさの問題がないのなら帰ろうよ」
「そ、そうね」
「そうしよう」
「帰りましょう」
僕は下駄箱の横にある傘立てに近づいて傘を持ってきていないことに気が付いた。
「そういえば傘持ってきてなかったんだった」
「そうなのっ」
なぎさは僕の言葉に反応したかのように笑顔になった。
「そんなに嬉しそうに驚かなくても」
なぎさの言葉に軽くショックを受けてしまった。幼なじみのなぎさが僕の小さな不幸を笑うひどい奴だったなんて…僕に雨に濡られて帰ってしまえって事なんだね。
……はぁ。
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