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「ねぇ、なんかネコの鳴き声が聞こえてこない?」
「あ、ほんとですぅ」
下校途中、なぎさがそんなことを言ってきた。
足を止めて耳を澄ましてみる。すると、工事と雨の音に紛れてかすかに猫の鳴く声が聞こえてきた。
「ホントだ。どこから聞こえてくるんだろう?」
僕はなぎさと優奈ちゃんと一緒にキョロキョロと周りを見てみる。
右にある商店街に続く道からは聞こえないね。
左の道路を挟んだ建築中の工事現場のところはうるさくてよく聞こえないなぁ。
正面の僕たちの家がある住宅街に続く道からは聞こえない。
「ちょっと目を瞑(つむ)っていないで捜しなさいよ!」
「うるさい。少し黙れ」
「黙れですって! あんたねぇ、そんことを言うヒマがあったら探しなさいよっ」
なぎさの怒声が聞こえてきて幸宏の方向を見てみるとなにやら揉めているようだ。
「二人ともなに喧嘩しているのさ」
「だって、こいつが目を瞑っているだけで捜さないから」
「目を瞑って……?」
幸宏を見ると確かに目を閉じている。
「だから、いい加減にしないと」
「なぎさ、しっ」
「え……」
僕は怒ろうとするなぎさの口元に指を押し当てて黙らせた。
幸宏のこの目を閉じる行為には見覚えがあるぞ。集中するときによくすることだ。
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