思い出

6/15
前へ
/32ページ
次へ
「それからしばらく経った頃だったわ、風の噂でお兄ちゃんが戦死したらしいって事を知ったのは」   「あの時は本当にショックだったわ…」   「その後私は結婚して、家族にも恵まれ、悲しい思い出が残ったこの地を訪れる事は無かったわ…」   そう言うと眼を閉じ、うっすらと涙を滲ませておった…。   「でもね、年を取ると不思議なもので、昔の思い出ばかりが甦るの」 「記憶の片隅に封印していたはずの悲しい思い出までもね…」   「形見になってしまった指輪をご遺族に渡してあげたいと思ってね」 「取りにこようと、何度も思ったんだけれど、この地を訪れる勇気が湧かなくてね…」   「気が付いた時には、こんなお婆ちゃんになってたの」 「自分も、もう老い先が無いって思って、ようやく決心が着いたの」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加