18人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
天界を二分する激戦はやがて、帝釈天軍の優位が目に見えてきた。転輪王軍に属していた神族は次々に投降、残るは夜叉族、阿修羅族、そして転輪王のみとなった。
もう、迷わない。阿修羅王のいる陣に向かって、ひたすら猛進する。
敵軍に斬り込んでいく私の背後から、叫び声が聞こえた。
「愛染! そのまま行くと御大将に出くわすぞ。転輪王は二体の幻獣に変化(へんげ)している、囲まれないよう気をつ」
味方の忠告はあっという間に後ろに流され、けたたましい鬨の声に消えていった。斬られてしまったのかもしれない。
前進あるのみの私には、振り返って助ける余裕など無かった。四方八方から繰り出される武器や拳の嵐、仲間のために戻って切り結んでいては体力が保たない。
下の腕に持つ武器は使い物にならなくなる度に敵から奪い、上の腕で父の大剣と宝剣を振り回して道を斬り拓き――がむしゃらに進み続ける。
突如、ふっと敵の垣根が途切れて、私は戦場とは思えないような空間に飛び出した。
そこに、えもいわれぬ戦慄が暗雲のように渦巻く。鳥肌の立つ全身を武者震いでごまかした、その時。
最初のコメントを投稿しよう!