転輪王

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 天界を二分する激戦はやがて、帝釈天軍の優位が目に見えてきた。転輪王軍に属していた神族は次々に投降、残るは夜叉族、阿修羅族、そして転輪王のみとなった。  もう、迷わない。阿修羅王のいる陣に向かって、ひたすら猛進する。  敵軍に斬り込んでいく私の背後から、叫び声が聞こえた。 「愛染! そのまま行くと御大将に出くわすぞ。転輪王は二体の幻獣に変化(へんげ)している、囲まれないよう気をつ」  味方の忠告はあっという間に後ろに流され、けたたましい鬨の声に消えていった。斬られてしまったのかもしれない。  前進あるのみの私には、振り返って助ける余裕など無かった。四方八方から繰り出される武器や拳の嵐、仲間のために戻って切り結んでいては体力が保たない。  下の腕に持つ武器は使い物にならなくなる度に敵から奪い、上の腕で父の大剣と宝剣を振り回して道を斬り拓き――がむしゃらに進み続ける。  突如、ふっと敵の垣根が途切れて、私は戦場とは思えないような空間に飛び出した。  そこに、えもいわれぬ戦慄が暗雲のように渦巻く。鳥肌の立つ全身を武者震いでごまかした、その時。
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