転輪王

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 私は、前後に見たことの無い巨大な白い塊があることに気がついた。それは不気味に蠢きながら、次第に間合いを詰めてくる。  武器を構え直した途端、その巨大な塊の一部に裂け目ができ、まるで鰐のような牙の山が現れた。  今更、あの忠告が脳裏に蘇る。だがここまで来てしまったら引きようがない。私は自分に言い聞かせた。 「私は絶対負けない。阿修羅王に会うまでは!」  阿修羅王は生き延びよと言った……生きてもっと強くなれ、と。だから、私は生き延びた。生きて力を磨き続けてきたのだ。  あの時――私を生かした真意を問うまでは、絶対に死ねない。  迫り来る巨大な鰐口に、敵から奪った武器は全く太刀打ちならなかった。  背後の敵を相手していた下の腕ははや、槍と鉈とを喰われて素手になり、上の腕に持っていた父の形見すら、前の鰐口に喰い折られてしまった。  しかも前の鰐口を牽制して宝剣を振るったその刹那、背後の鰐口は一気に間合いを詰めてきた。  何が起きたかは分からない、背面の耳に歯噛みする嫌な音が響き渡り、咄嗟に顔を庇った下の腕に鋭い衝撃が走った。
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