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身内のほとんどは敵軍の神族に狩られてしまった――
天界の掟により、ここだけは争いを行ってはならぬと言われる『聖池』。そのほとりに、私は独り佇んでいた。
明王族の血を引く者とはいえ、戦にかたるには我ながら幼すぎると思う。水面に映る己の体は、空を飛び交う大人神の逞しい体には、到底及ばない。
今、むやみに空に飛び出せば、あっという間に転輪王軍にやられてしまうに違いない。
不安と空しさだけが膨らんでゆく……こんな時、味方であるはずの帝釈天軍でさえ、自分を狩ってしまいそうに思えてくる。
二つの腕で頼りない膝を抱え込んだ、その時。空から誰かが降りてくるのが見えた。
私は種族の出所を隠すため、後ろの顔を頭の中に引っ込め、髪で素早く覆った。
相手がもし転輪王軍の者だったら、明王族である自分を無理矢理空に連れ出して殺してしまうかもしれない。
幸い、帝釈天軍にも転輪王軍にも一面四臂の神族はいる。こうしていれば、何とか逃れられるだろう。
背面の視界が無くなっても、その気配はますます近付いてくるのが判る。
それはやがて、私のすぐ後ろに……音もなく降り立った。
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