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「このような目立つ所にいては、かえって危ない。一族の砦に早く戻りなさい」
若い男の凛とした声が、静かな水面に微かな波紋を広げていく。
戻れと言われても、砦は既に崩壊している。帰るあては無いのだ。しかも、身を寄せたい御大将の帝釈天は、大の子ども嫌い……
やっとの思いで逃げて来た唯一の場所が危ないと言われては――いっそ狩られてしまえと言われるのと同じことではないか。
私は返事をせず、俯いたまま膝を抱え直した。背後の気配は私の横に並び、顔を覗きこむように屈んでくる。
(六臂……?)
目の端に侵入してきたのは、三本の腕。私は思わず顔を上げ、相手が誰なのか確認してしまった。
「!!」
私の横にいたのは、転輪王直下の神族、阿修羅。反射的に飛び上がりかけた体を抑え、必死に平静を装って顔を逸らした、が。
「そなた……後ろの顔を隠してはいるが、明王族の子だな? なるほど、帰る所は既に無し、か」
あっさり見抜かれてしまった。もはや、これまで。私は覚悟を決めて立ち上がった。
他でもない、阿修羅族が両親を奪ったのだ。私は形見となった亡き父の大剣を構え、目の前の敵を睨み付けた。
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