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剣を振り上げるよりも早く、阿修羅族は私の腕を取り押さえて呆れたような顔になった。
「ここは聖池。荒事は許されん」
そのようなことを言われても、足が少しでも浮いてしまえば、悠長な発言はたちまち消え去るだろう。
剣の柄を握り直そうとしたその瞬間、手首をクッと絞られ、私は無様にも剣を取り落としてしまった。
「うっ」
当然過ぎる力の差、無駄に緊張させていた体を諦めの境地で弛める。
どうあがいても勝ち目はない。それならば、いっそ――
「殺せっ」
刹那、間近にある阿修羅族の目が、カッと見開く。これは私の奥の手……
敵の腕の一つが震えながら、私の取り落とした剣を拾い上げた。
父上母上、私も――
私はゆっくりと目を閉じる。思い残すことなど何もない。
視界を閉じた私の顔に、ふいに温かい息がかかった。それは唇に触れてハッと瞼を押し上げると、
「……そなたは本当に言霊の力が強すぎる。しばし、その力は封じさせてもらった」
すぐ目の前に、阿修羅族の黒い瞳があった。
「その力……幼いながら大したものだ。しかし、使い誤れば身を滅ぼすことになる」
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