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こんなところでってここはただの商店街だし、第一私はこの男に会いに来たわけじゃないし、みたらし団子は早く食べたいし、この人はキメ言葉っぽく言ったつもりか知らないけど全然決まってないし。
そんな取り留めのない思考が頭を巡り、この人はヤバいと感じた防衛本能から私が思わず取ってしまった行動は今から考えても、まあ、多分仕方ないと思う。
何したかって言えば……
「いやあああああああ!!!」
と叫びつつ、男の顔面にヘッドアタック(要は頭突き)をかました。
「ぶはぁ!!」
見事にクリーンヒットしたらしく、ナンパ男はあっさりと長い年月で少し古くなったタイル張りの地面に倒れ込んだ。白目剥いてるから気絶したっぽい。
……とりあえず結果オーライ。
「はぁ、はぁ………」
荒くなった息を整える。ものすごい疲労を感じた。精神的に。
「やっほ~、ナイスアタック~」
いつのまにか近くに来ていた渚が声をかけてくる。
顔を上げれば彼女は何時もののほほんとした顔をしていた。あと、見覚えのある団子の串を加えてた。私を放置プレイの上に1人で団子を満喫して!
そんな私の恨みを汲み取る事なく、彼女は表情と同じくのほほんとした声で言った。
「あはは、すごいねぇ。皆が綾を見てるよ?」
「………はい?」
渚の言葉に首を傾げて辺りを見回すと、商店街は静まり返っていた。
『三味堂』のおばさんも、その向かいの駄菓子屋のおじさんも、その隣の服飾店のおばあさんも。
その他買い物や世間話に興じていた大勢さんも。
………全員が私を見ていた。
「………あれ?」
思わず口から零れ出た言葉が、やけに大きく商店街に響いた。
このヘッドアタックが、後に日常から非日常に変えうる一撃でもある事に、その時私は予期すらしてなかった。
あとみたらし団子は最後の一本を渚が食べたので売り切れてしまった。
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