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竜也は、自身の家の壁を半霊化状態で通過して、自分の部屋へと降り立つ。
鍛練は、竜也が祭式を手にしてからは、午前一時に時雨が竜也の家まで竜也を迎えに行く、というのが基本だった。
寝ていたら、勿論時雨に叩き起こされる。
それから、前園家のほぼ上空で鍛練を一時間程行ってきたのである。
それが、今日は何故だか三十分で済んでしまったので、竜也は驚いたのだった。
すたん、と竜也は無意識に、部屋の床に触れたいと思い。
その直後、半霊化を解いて、人へと戻る。
灰色霊素は収束し、竜也の右手首に収まった、あのブレスレットへと戻っていった。
「…………」
そして、竜也はベッドに倒れこむのであった。
「ふわあぁぁああ~」
と欠伸をする。
見れば竜也、パジャマ姿であった。
いや、制服で午前一時に訪れてくる時雨の方が、ちょっと普通ではないだろう。
とにかく、疲れた。
ここ一週間で、竜也は普段帰宅部では使用しない筋肉を、フルに稼働させることを強いられたので、既に体のあちこちが悲鳴をあげていた。
何度時雨に、あの牙氷槍を突きつけられたんだろう。
そんなことを思い、竜也はぶるっと身震いするのであった。
霊素で己の体を清める、という便利なことまで時雨から教わっていたので、パジャマ姿のまま鍛練をし、寝てしまっても全然気にならないのであるが、別のことで、竜也は寝付くことが出来ずにいた。
先ほど少しぼーっとしていたのも、それのせいである。
鎮魂者となるための覚悟は、固めてある。
ギヤマンによる被害者や加害者を、竜也はもう誰も見たくはなかった。
自分だけで、十分だった。
自分のための、悩みではなく。皆のための悩み。
祭式を得て、竜也が感じたことに対する悩みであった。
うぅぅん、と竜也は寝返りをうった。やっぱり直ぐには寝れなかった。
こういう時に限って、手首にはまったブレスレットが、邪魔ったく思えてくるのだった。
今だから分かること。
幸い、再び鶴伽市に鬼人は出現していない。けれど、このままではいずれ――。
時雨に聞き出すタイミングを失っていた竜也は、時雨にもこの悩みを打ち明けられずにいた。
だから、誰もいない自分の部屋で、竜也はぼそりとこう言うのである。
「街を守るために……、皆のために……、僕と時雨が鶴伽市から出ていったほうが、鬼人に狙われなくなるのかな……?」
まだまだ寝付くことは、出来なさそうだ。
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