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「えー、今日は他の種目の先生が出張でいらっしゃらないために、先生が三、六、九組全てを受け持つこととなった!」
体操服で整列する生徒達。
特に男子の方から、うっ、といった感じのうめき声が漏れた。今は、六限の体育の時間であった。
うめくのも無理はない、何故なら、その、今日の体育を受け持つこととなった先生とは、鬼村と名高い、笹村先生のことだった。
元々体育の種目の担当が、笹村ではなかった生徒達が、うめいたのである。
だが、反論する生徒は、一人もいなかった。
「えー、ということで、普段の種目は出来ないので、今日の授業は、クラス対抗のレクリエーションとする――」
「……はぁ」
ピーッ、という開始のホイッスルの音。その時、竜也は外野でため息をついていた。
レクリエーションとして行われているのは、こういう時の定番中の定番、ドッジボールであった。
クラス対抗なので、三組対九組男女混合というチームで、それは開始された。
竜也は三組。
開始早々ボールに当たり、外野送りにされたわけではなく、竜也は自分から進んで外野に行ったのである。
テンションの低いまま参戦したとて、対した戦力にもならないだろうと思ったからだった。
その場を仕切っていた猿山からは、
「んぁ? あー、おう! 別に外野に行ってもいいぜ」
とお許しを得たので、竜也は外野にすたこらさっさと逃げたというわけだった。猿山にしてみれば、男が減れば活躍のチャンスが上がるじゃん! というところか――。
いや、実際見てみると、猿山はコート場の支配権を一挙に賄っていた。
「うおぉぉおおお! 野郎共に容赦はしねェーッ!!!」
と、男女混合なのに、猿山は針に糸を通すような投球コントロールを見せ、野郎共、つまり男子を薙ぎ倒していっていた。
対男相手にとことん強い、それが猿山信也なのだ。
それで、竜也はというと。
竜也は、外野でしっかりと駄目駄目っぷりを発揮していた。
最初から外野にいたのは四人。竜也はぼっーとしていて、ボールを手にすることが出来ないでいた。
内野に戻ろう、という気持ちがないのかもしれなかった。
でも、そんな竜也に、
「あの……、前園くん……」
と、彼女は優しく声をかけるのだ。
竜也はゆらりとそちらを見た。見えたのは、不安そうな、でも慌てたような顔をした、篠原智美、彼女だった。
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