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最初の四人の外野。
竜也と同じように、智美もボールを手にすることが出来ないでいた。
どちらかと言えば、竜也はボールを捕らない、であり、智美はボールを捕れない、であった。多分、いや、もうはっきりといってしまって、智美はこのような場面では活躍できない子である。
運動は、苦手。
猿山が、理恵に踏み潰されながら、泣く泣く智美を外野に送ったのは、そんなわけだった。
理恵が一番智美のことを分かっているのだろう。
最も、にやにやと理恵が智美を外野送りにしたのは、もっと違った意味合いがあるのかもしれないが――。
「うおぉぉぉおお! くらえぇぇええい!!」
「くそっ、誰でもいい! 止めろ! 奴を止めるんだ!!」
何事かと思えば、これはコート内のことである。
何か(女の子)を守るということにおいて、誇り高き理由(下心)を持つ戦士、猿山信也。
その戦士によって、九組男子は、もう過半数が外野へと飛ばされていた。
それに反して、三組の内野は未だに無傷であった。
だが、今の竜也にとってそれはどうでもよく。
大切なのは、目の前のことだった。竜也に声をかけた智美が、再び口を開いた。
「あの……、その、やっぱり前園くん、最近何かあったの?」
「……え?」
「ち、違うならいいの。でも、ここ数日の前園くんは、何だか元気がないような……」
「そそ、そうかなぁ……」
と竜也は慌てて、智美にそう返した。ように、と表現しなかったのは、それが図星であるからだ。
皆には隠しきれていると思っていた竜也だけれど、理恵に感付かれ、智美に見破られて。
しかしそれは、どうしようとも伝えられないコチラのこと。
竜也は、だんまりとしてしまうのだった。
「…………」
「…………」
「…………」
何やら、気まずい空気が流れ始めたのだが――。
智美は、頑張った。
「大丈夫だよ」
「……え?」
今度は少し呆気にとられた竜也の顔。それを見て、智美はくすっと笑った。
「やっぱり、何かあったんですね」
「どどど、どうして!?」
智美は竜也にぴたりと目を合わせて、「顔を見れば分かるよ」と言った。
何だか哀しさを含んだ笑顔でそう言われたので、竜也は心が高鳴ると共に、ちくりとそれが痛んだ。
「時雨ちゃんのことですか?」
智美は、大いなる勘違いをしているのだった。
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