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だがしかし、あえてここに宣言しよう。
竜也は、智美と同じくらい勘違いしやすく、そして、鈍いということを。
兎も角、竜也は智美の「時雨ちゃんのことですか?」という問いに対して、こう応えたのであった。
「うん……、誰のことってことになると、そうなるかな……」
嗚呼、竜也は何ということを言ったのだろう。
確かに、それは間違ってはいない。時雨に相談出来ない自分がいて。皆を心配させてしまう自分がいて。
けれど、竜也の悩みと智美の勘違いは、全く違う軸に存在していると言っていいほどにずれているのである。
だから、竜也の言葉に智美は一瞬しゅんとなった。
でも、智美は直ぐに竜也に向けて笑顔になる。
勘違いのドジっ娘だが、智美は強い子であった。
「私が、こんなことを言っていいのか分からないけど……」
「…………」
「その、知りたいわけじゃないですよ? だけど、前園くんの相談なら、私、いつでも聞きますから」
「そんな……、べ、別に大丈夫だからさ」
見つめられる恥ずかしさ、それに皆と関わることを避けている自分。
二つの理由で、竜也はその申し入れを断った。
「でも、前園くんの力になれるなら、なりたいんです。一週間とちょっと前に、熱をだしていた私を前園くんは心配してくれた……。私はまだ、何もお礼が出来ていないですから」
人間である智美の、一週間前のあの事件の存在の滅却により変化した記憶。
鬼人の存在に脅え、数日間学校を休んだ、というものは、たちの悪い風邪をひき、数日間学校を休んだ、というものに修正されていた。
そんな風に迫られては、竜也も困ってしまうのだ。
一頻り、竜也は唸った。
智美が続ける。
「時には、自分の気持ちに素直になることも、大事だと思います。前園くんがそうなら……」
その後で智美はぼそっと「時雨ちゃんに伝えるべきです」と言った。
しかしながら、最後のぼそっと言ったその声は、幸いなのか不幸なのかよく分からないが、竜也に届くことはなかった。
竜也はだんだんと、自分に腹が立ってきたのだ。
そのあまりに、竜也に智美の声が届かなかったというわけだ。
皆と関わることを避け、時雨に問うことも避けていた自分。
逃げていた自分。現実を知ることを恐れていたんだ、と竜也は智美に向き合って、ようやくそのことに気が付いた。
「あのッ、篠原さん!」
自分の気持ちに素直になろう、と竜也は叫んだ。
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