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いきなり目の前で大声をだされたのならば、誰だって驚くだろう。
智美もそうだった。自分の名を呼んだ竜也の声に、智美は体をきゃあと跳び上がらせた。
「え、前園くん?」
「ありがとう」
「え?」
竜也は、自分のすべきことを気付かせてくれた智美に、お礼を述べるのだ。
「僕聞いてみるよ。篠原さんの言葉で決心した。だから、ありがとう」
そんな言葉に智美は、じろりと竜也の目を見た。
さっきまでとは違う、何だか元の前園くんに戻ってくれたような……。
故に智美は、底無しの沼のような、深く、哀しい声でこう言った。
「そう、ですか……」
聞いてみるよ。
前園くんは、時雨ちゃんに何を聞くのだろう? と智美は考える。
同時に、どうして私、あんなこと言ったんだろ、私……、馬鹿だよね、と智美は思った。
でもやっぱり智美は、元気がなくて、抜けている竜也を見る方が辛いのであった。
智美は自問し、自答出来ずにもんもんとする。
竜也はそんな智美を、もじもじとする智美を、不思議そうに見つめるのだった。
本当に誰か、この鈍感主人公を一回ひっぱたいて、目を覚まさせてやってほしい。
「しのは――?」
神は見ていらっしゃった。その願いは、すぐに叶ったのだ。
「ボフゥ!?」
ひゅるひゅるひゅーん、と飛んできたドッジボールの球。
それがすこーん、と竜也の側頭部に直撃したのだった。
変な声を出した竜也は、そのまま情けなくグラウンドに尻餅をついた。
「いててて、一体……」
「ごめん前園くーん! ボールこっちこっちー!!」
内野から、理恵の声がした。
猿山に並ぶ活躍を見せていた理恵の投げたボールが、見事竜也に命中したというわけだ。
ぐるりとこの戦いの戦況を確認すると、三組の圧勝であるようだった。
九組の内野には、数人の女の子しか残されていなかった。
男子は全て猿山が倒したのだ。
「うおぉ! この決断に悔いなし!!」
と言って、猿山が喜んで九組の女の子のボールに当たりにいったのが、つい先ほどのこと。
これもまぁ見事に顔面にクリーンヒットしたので、猿山はそのまま幸せそうに外野で倒れているのだった。
「あ、うん!」
と竜也は理恵にそう応え、内野にボールを投げる。
その横で、智美が愁いの顔をしているとも知らずに――。
此方は内野。
「時雨、一気にいくよ!」
「……分かった」
数分後、笛が鳴り、三組の勝利が確定した。
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