492人が本棚に入れています
本棚に追加
空。
羽ばたかぬ、鋼鉄の鳥達。
鳥達は、雲海に編隊をなして、飛んでいた。
雲海の下にうっすらと見えたのは、輝く青い海。
バタバタと、鳥達の煩い鳴き声がしていた。
その数、六機。
どこか重苦しい雰囲気で、前に一機、後ろに一機。
そして、二機の鳥に挟まれるようにして、横一列に、残りの四機が飛んでいた。
曇の中を飛行しているのは、敵に見付からないようにするためであった。
その苦労あってか、鳥達はまだ敵に遭遇していない。
曇の途切れに、日の光が鳥を包む。鳥は、己の鋼鉄をきらりと光らせた。
翼と胴体に描かれた、赤い日の丸の国籍標識。
その他は濃緑一色である。
いや、その胴体に、黒く大きな文字で、『大和』と書かれていることを忘れていた。
統一感をもって、全ての鳥達に、『大和』と刻まれていた。
恐らく、それがその部隊の名であるのだろう。
二機の護衛の元、真ん中の四機には、爆弾がつまれている。
燃料も、必要ない、との理由で片道分しか供給されていない。上官からの命令は、こうであった。
敵艦隊を見付けしだい、体当たりの特別攻撃を敢行せよ、と。四機の鳥達は、そのために飛んでいるのであった。
護衛である筈の二機の鳥が、自身を閉じ込める牢のような気がして、真ん中の四機の、一番右の鳥に乗った青年は、その薄幸の瞳を軽く潤ませた。
が、隣の鳥に乗った同僚が、自分に手をあげるのが見えて、青年は、ぐっと堪えて、手をふりかえした。
風防越しに見た同僚は、笑顔であった。
恐怖を無理矢理押し込んだような笑顔。
自分もそんな顔をしているのだろうと、青年は思った。
怖いのだ。
これから起こることは、皆、分かりきっていることだった。
そうだ、これは自分で決めたことじゃろうが、と青年は勇気を奮い起たせた。
青年は、『熱望』『希望』『志願セズ』、この三つの項目から『熱望』を選んだ自分を思いだしていた。
最も、同僚の皆が、それを選んでおり、青年だけが、逃げれるはずがなかったのだ。
確かに……、そうだった。
でも、でも、最後には自分で。
と青年は、恐怖の息を、吐き出した。
ふっと気を緩めれば、操縦をする手が、がちがちと震えてくるのだった。
今は、まだその時ではない。
だが、すぐにその時はやってくる。
青年を含んだ、鳥。
そして、後三機の鳥。
四機は、死に場を目指し、さ迷い続けていた。
最初のコメントを投稿しよう!