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そこは、鶴伽市。
住宅街の上の空。
闇夜に、ぼやぼやとした灰光が浮いていた。
光の正体は、祭式、灰ノ明々星を発動させた少年、つまり、竜也であった。
「はあぁぁぁあああああ!!」
掛け声と共に、竜也は両腕で、続けて交互に空を切り裂く。
その動作に、後を追うようにして、灰光の衝撃波が発生した。爪ような、竜也の身の丈ほどもある、十本の衝撃波。
丁度、指の数と同じである。
それらは、目標に向かって、空を滑っていくのだった。
目標とは、竜也の二十メートルばかり先に浮遊する、一人の少女であった。
竜也の鈍い光とは違い、少女の色は青。
ふわりと揺れる、髪は鮮碧。
冷たい瞳は、紺碧の色。
頭には、何やら変わった帽子を被っていた。
水のような立烏帽子。
そう、祭式、アクア・ティアラを発動させた、時雨である。
「ブループリズン」
と、小さく時雨が言った。
その言葉に反応し、時雨の周りに水の壁が出現する。
正方形のサイコロの中に、時雨がいるという光景。
それだけ見れば、どうやって入ったんだおい、とつっこむ人もいそうな光景。
いや――。
ギヤマンの力により、霊化状態にある二人の姿、声、霊素、祭式等々を、普通の人間が視認出来るはずがなかった。
おかしな描写であったことに、お詫び申し上げよう。
そうこうしているうちに、ブループリズンに、衝撃波が打ち当たっていた。
水のようなのに、中々堅固なようである。
衝撃波は、全て無効化され、掻き消えていった。
「…………」
時雨が、その目でジロリと竜也を睨んだ。
ブループリズンが輝き、形を変える。
正方形のサイコロは濃縮され、時雨の右手に集まる。
右手に、牙氷槍が握られた。
竜也は、自分の放った衝撃波が全く効き目のなかったことに、苦笑いをしながら、すぐさま次の行動へと移った。
目の前にいた筈の時雨が、もう消えていたから。
竜也は、時雨の動きをなんとか目で追った。
凛、として。
時雨の牙氷槍による斬撃は、竜也の真下から来たのであった。二人共空に浮いているから、そう難しいことではない。
竜也は「うわっ」と言って、慌ててそれをかわす。
己の銀翼を、ばっと動かしたのだった。
竜也がすっと上昇して。
時雨の牙氷槍が、チっと竜也の服をかすめ。
そして、その時。
「ピピピピピピピピッ!!」
と、制服姿の時雨の懐で、何かが鳴った。
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