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時雨は、その斬撃がかわされたことで、更なる攻撃に派生させようとしていたのだが、
「ピピピピピピピピッ!!」
というけたたましい電子音に、動きを止めた。
もし、後少しだけそれが鳴るのが遅かったなら、竜也は劣勢に立たされていただろう。
「ピピピピッ…………」
牙氷槍を退席させ、時雨は懐からそれを取り出して、それの音を止めた。
それとは、何の変哲もない、キッチンタイマーであった。
竜也は、ほっと息をついて、こう言った。
「ふぅ、やっと三分かぁ……。時雨、どうだった?」
時雨は、淡々と言う。
竜也を倒せなかったのが悔しくて、その口調は、わざとであったような気もした。
「最初に比べて、よく動けるようにはなっている。けれど、まだ不安定」
それを聞いて、竜也はがくっとなるのだった。
時雨が、ぼしゅっと祭式を解いて、半霊化した。
「今日の鍛練は、ここまでにする」
「ほ、ほんと!?」
「……まだ、続ける?」
「い、いえッ、そういう意味じゃないんです」
疲れていた竜也は、まだ続けられてはかなわん、とそれを否定した。
否定して、竜也も霊化状態から、半霊化状態へとなる。
ここら辺の動作だけを言えば、竜也は、殆んど無意識にこなせるようになっていた。
そんなことを、時雨に嬉しそうに報告したのが、もう五日も前のこと。
次の日からは、本格的な戦いにおいての鍛練が開始されたのだった。あれから、一週間が過ぎていた。
竜也が力を得てから、祭式を得てから、一週間。
鶴伽市は、三人の鬼人から受けた傷を、完全に修復することが出来ていた。
あれ以来、鶴伽市に鬼人が出現したこともなかった。
時雨曰く、
「鎮魂者や適合者ならまだしも、人間が鬼人に遭遇するのは、多くて数回。全く会わない場合の方が多い」
とのことだった。
鶴伽市の存在は、一先ずの安全が確保されたのである。
そうして竜也は、適合者ではなく、今度は鎮魂者としての鍛練を、今まで続けてきたのだ。
「…………」
鶴伽市を、皆を守る、と決心した竜也に、一つの複雑な思いが沸き上がってくるのだが、それは時雨の声で、隠れてしまう。
「リューヤ」
「あ、ごめん。じゃあね時雨、また明日」
「分かった」
と言って、時雨はふわりふわりと、そのまま自宅へ帰っていった。
『三分間私の攻撃に耐える』というきっつい鍛練が終わったことに、取り敢えず竜也は安堵するのだった。
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