鶴の恩返し

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「…今晩のメニューを急遽変更してもいいかもな」 男がそんなことを呟くと、鶴は野生の本能か第六感かが危機感を察知したのか、怯えながらも精一杯威嚇するように鳴き声を強めた。 「いやいやしかし、もしここで鶴を殺したところを誰かに見られでもしたら俺が今まで築き上げてきた優しいお兄さん像がベルリンの壁のごとく粉々に崩壊してしまうな…」 バカでかい笊の前にしゃがみぶつぶつと何かの呪文を唱えるように呟き続ける男。 もはやその光景だけで十分今まで男が築き上げてきた優しいお兄さん像とやらを壊す要素が詰まりまくっている。 「まぁいい、どうせ重いし持ち帰るのも面倒だ」 やがて顔を上げた男がそぅ独り言を呟き、笊を持ち上げて鶴を逃がしてやった。
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