ウワサ話は唐突に

9/12
前へ
/42ページ
次へ
「あっ…」  公園を過ぎた電柱の影に物音の犯人がいた。  それは小さな子猫だった。ありがちなダンボール箱の中に縮こまっている。 「にゃぁ」  一声鳴いた子猫は不意に顔を上げ、つい見つめてしまっていた僕と目が合った。 「…えっ?」  その瞬間、僕は自分を疑った。目を擦り、頭を振り、もう一度子猫の目を見た。 何度も見た。 しまいにはしゃがみこみ、鼻先が触れる距離まで近づいた。 そこまでしても結果は同じだったがやはり信じられなかった。  こんな小さなうちに捨てられて、冷たい雨に打たれていると言うのに… どうしてこの子猫は、こんなにも『喜んでいる』のだろうか? どうして『寂しさ』や『悲しさ』が読めないのだろうか? そんな真っ直ぐな感情を一蹴する事は僕には出来なかった。 「にゃあ」  その子猫がもう一度鳴く頃には僕の手持ちは3つになっていた。 少し重くなった腕で僕は家路を急いだ。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加