喋らないねこ

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喋らないねこ

 にゃあ、とばかりないた。    このこはしゃべらない。  でもぼくはかいわをしていた。  すきなたべもの、すきなばしょ、すきなおと、すきなヒト……。    ぜんぶ、かれがはなしていたこと。  ぼくにはりかいできた。  ぼくもまた、おなじてーまでかれにはなした。    かれは、にゃあ、とばかりないた。    ぼくはなんで? ときいた。  かれは、にゃあ、とないた。        いつのまにか、かれはいなくなっていた。  いつもねていたえんがわにも、いつもあるいていたへいにも、どこにもいなかった。      ぼくははしってかれをさがした。  みつかるまでさがした。    かれはどこにもいなかった。          ぼくはいしのはしらのまえにいた。  ぽつりとたっているいしのはしら。    ぼくはかれにきいた。  かれはどこですか? って。    かれはここにはいませんよ、とこたえた。    ぼくはまた、はしりだした。        とおくまで、もっと、とおくまで、あしがつかえなくなるまで、はしって、はしって、かれをさがした。  ぼくは、まっくらなばしょについた。      くらくて、なにもみえなくて、なにもきこえなくて、ぼくはあしをとめた。    つかれたわけではない。はしっても、どこにもいけそうになかったから。        ぼくは、にゃあ、とないた。    かれはこのこえをしっているから。  このことばをしっているから。    ぼくは、にゃあ、とばかりないた。        くらやみがはれた。  ひかりがさしこんだ。      ぼくははなせなくなった。  ことばはしっている。  でも、おもいだせない。            かれはこういった。   『わたしは、あなたのそばにはいられない。でも、またあえるよ』                    ぼくははなせない。  かれははなせる。              ぼくはここにいる。  かれはどこにもいない。              ぼくはどこにいる?  かれは、そこにいる。              ぼくはしゃべれない。  かれもまた、しゃべれない。              だって、ぼくたちはただのねこなんだから。
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