憎悪

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「さてと、そろそろ行かなきゃまずいかな…」 少女は身支度を整え、家を後にする。 真っ黒なコートに身を包み、真っ黒なブーツを履いたその姿は夜の闇に溶け込んでいった。 「…ここは?」 狭い部屋に鉄格子、いわゆる牢屋に一人の少年は閉じ込められていた。 「そうか、僕は…殺したのか」 この少年こそがニュースに流れていた殺人犯。 「あれから…後ろから誰かに殴られて… くそっ!!思い出せない…」 『目が覚めたのか?』 突如どこからか声をかけられ、うつむいた顔をあげる。 すると格子のむこうで看守が睨んで来た。 「あんた大変なことをやってくれたなぁ。殺した奴らがどういう人物か知っているのか?」 少年は興味もなさそうにシカトする。 「ったく、自分の立場をわかってんだかないんだか…。まぁいい、お前が殺した奴ら…全員が国の重要な研究員だった。知らずにやったなんてことはないよな?」 「だとしたらなんだ?」 今度は打って変わって不機嫌な態度をとる。 少年は自分が捕まっているという恐怖感はまるでないようだ。 「なに、だったら動機は簡単に推測できる。その研究対象にお前、もしくは家族・恋人が選ばれ死んだ、つまり私怨ってとこだろ?」 「…あんたには関係ないだろ」 別に動機がばれることが問題なんじゃない。 ただ他人のことをいろいろ詮索されるのは嫌いだ。 それに何でも分かっているように決め付けられるのはもっと嫌いだった。 「気が強いガキは嫌いじゃない。限度を過ぎなければ…な。 分かってんのか?お前はもうすぐ殺されるんだぜ」 「別に…俺の目的はもう終えた。 こんな世界に未練なんてない」 そう…あいつがいない世界なんて………。 「…そりゃあ残念だったな。お前の目的はまだ終わっちゃいないよ」 「………!? どういうことだ?」 「簡単なことだ。研究員に怨みがあるってことはお前の目的は“ヴァンパイアプロジェクト”関係だろう?」 自分で自惚れるだけあり、こいつは頭の回転は早そうだ。 「だとすれば、お前が殺した6人はプロジェクトの上層部。幹部にあたる奴らだ。」 「だったら何で終わりじゃないんだ?」 「よく考えろ。幹部を狙ったのはいいが、殺した奴にプロジェクトの発案者はいたと思うか?」 …そうだ。何でそんな簡単なことに気がつかなかった? プロジェクト発案者。そんな奴が簡単に殺せるような場所にいるはずがない。
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