第一章一幕・江東の小覇王―199年

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華流は退出すると、用意された部屋へと向かった。部屋に入り適当に座ると、一人の文官が部屋に来た。その人の肌は白く、狐を思わせる顔だった。   「はじめまして。私の名は呂範(リョハン)、字を子衡(シコウ)と申します。以後、お見知りおきを」   「はい、私の名は……」   「華流殿でしたな。耳に挟んでおりました」   呂範と言う男は華流の自己紹介を遮った。その程度で気を悪くする程華流の器は小さくなかった。   「呂範殿、御用件は何ですか?」   「今夜、国の文武の代表者数人が集まって酒宴をするのです。それで、孫策様がぜひ華流殿も、と言う訳です」   「わかりました。ぜひ参加させていただきます」   呉の国の人物を見る事が出来ると考えた華流はすぐに返事をした。それを聞いた呂範は一礼し、   「では、お待ちしております」   と言って退出した。   「ふぅ……化かされた気分だ」   華流は、呂範が去っていく足音を確認した後に呟いた。日が暮れるまで自前の書物を読んで過ごし、その後準備をしてから会場へと向かった。   会場は既に笑い声が起こっている。中を少し覗くと孫策の横顔が見えた。孫策は女性を侍らせていた。丁度華流には背を向けるようにしていたので顔はわからなかったが、不意にその人が振り向いて華流と目が合った。女性の容姿はとても美しく、飾られた花も劣って見える程だった。華流は慌てて襖の陰に隠れると、いきなり声をかけられた。   「華流殿、どうなされました?」   そこにいたのは呂範だった。   「呂範殿……孫策様の隣にいる女性はいったい誰ですか?」   「あのお方はこの国の国老である喬玄様のところのお方だった人で、今は孫策様の正妻となっています。周瑜殿も、あのお方の妹を嫁に貰い、あのお方を大喬(ダイキョウ)、周瑜殿の妻を小喬(ショウキョウ)と人々は呼び、江東の名花と言われています」   呂範はそう説明した。その呂範の顔を見て、華流は伝える気にならなくなった。   大喬が怪しいという事を。
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