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「いらっしゃいませ♪。何名様でしょうか?」
「ん」
都心から少し離れた位置に建つファミレス、そんなファミレスに入った男は、マフラーを外しながらウェイトレスに向かって人差し指をスッと立てて見せた。
「1名様ですね。御煙草はお吸いになられますか。」
首を横に振り、早く案内してくれと言わんばかりに歩き出す男。勝手知ったるという行動だ。
「か、かしこまりました。こ、こちらへどうぞ。お決まりになりましたらそちらのボタンを押して下さい。」
既に席に着こうとしている客に向ける言葉では無いのだが、女店員はムリな笑顔を作り、会釈をして立ち去っていった。そんな接客態度を尻目に、彼、黒崎 真也(クロサキ シンヤ)はそこにいた。店のレジの付近、レジ外からは死角かつ関係者だけが座ることを許されているスペース。そこで今日初めて採る食事、オムライスを黙々と食べていた。
客は今入ってきた男を合わせ、5組。
平日のお昼のピーク時過ぎでこの客数は上々と言える方だろう。
しかしそんな時間帯にも関わらずファミレスにいる理由は何故だろうか。可能性として候補に挙がるのは…。
1,仕事が無くて親のすねをかじるニート。
2,リストラされたのに家族に言い出せず毎朝会社に行くフリをしてに時間をもてあそぶ一家の大黒柱。
3,学校の授業をボイコットした生徒たち。
などなど。
どうしてそういうマイナスな部分ばかり考えてしまうのだろうか、それは真也本人が他とは違って少し『特殊』なことが関係している。
どのように『特殊』なのか掻い摘んで説明すれば、年齢で言えば大学二年生にあたる彼、現在二十歳は今、やる気が全くと言っていいほど無い。働きもしない勉強もしない毎日家に籠もってネトゲを繰り返す日々。口にして言ってしまえば[HIKIKOMORI]という特殊生物。
・・・スミマセン調子ノりました。
何となく[ひきこもり]を格好良くしようとして調子コきました。
まぁどうしてそんな[ひきこもり]が部屋の中に大人しく引きこもっていないのかと言うと、理由は如何に明白である。
金がない。
懐にしまった折り畳み式の黒財布にそっと触れ……、その厚みの薄さにフッと自嘲的な笑みを零す。
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