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通い慣れた道。
念を押しておくが、実家に向かうのではない。
ついでに言うと職場でもない(これは社会人としてどうなんだろう)。
俺が行こうとしているのは、とある小さなバーである。
初めてその店に行ったのは、彼女に振られた時だった。
何かまっすぐ家に帰る気分じゃなくて、ふらっと立ち寄ったのがその店で。たまたま店には俺しかおらず、マスターと話してるうちにどんどん意気投合した記憶がある。
それからは落ち込んだりふと寂しくなった時には必ず出向く心の拠り所、佐藤祐輔御用達の店というわけだ。
……で、今日はというと。
たいした事じゃない。ただ、「ちょっと」仕事がうまくいかないだけなんだ。
頭ではちゃんと分かっているのにこうやって癒しの場に足を向ける自分を止められないのは、俺の心が弱いからだ。
こんなだから「頼りない」「将来性が感じられない」とかで振られるんだよな、俺……まずい、また自己嫌悪だ。
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