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一度溜め息をついてから、店の扉に手をかけた。
今日もきっと客は俺だけか、いたとしてもご年輩の方だろう(失礼な言い方かもしれないが、マスター自身が「細々とやってる」っていうくらいの店なのである。俺はこの店のそういうところが好きだ)。
俺はマスターに一杯入れてもらって、少し愚痴って、それから──
「マスタぁ~、もう一杯……」
「お客様、飲みすぎですよ!」
「何よ、私なんかに出すお酒はないっていうの?」
それから……?
俺の予想とは裏腹に、カウンターには女性が一人。
見たところ俺と同年代。そして……相当、荒れている。
「あ……これはこれは……」
カウンターの向こう側のマスターが、困り果てた顔でこっちを見た。
そして、そのマスターの視線に気付いたのか、彼女も──
──色んな意味で、驚いた。
ひとつめは彼女が、さっきの悪態つくイメージとはかけ離れた、綺麗な人だったこと。
もうひとつは、その彼女の瞳に、かすかに涙の跡が残っていること。
タイミング、悪かったかな……。
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