シアワセのカタチ

6/11
前へ
/51ページ
次へ
「……でね、彼ったら私がいるのに、内緒でキャバクラなんかに通っちゃってて! 結果、気に入った子が出来たみたいでフラレちゃった。泣くのは悔しいから、精一杯強がってきたんだけど」  女の話は長いっていうけど、まさかここまでだとは思っていなかった。  腕時計を見ると、午前零時の十分前を指している。  ……話を聞くこと二時間。東京と大阪を飛行機で往復できる時間にあたる。  ──だけど。  聞いた限りでは彼女は、一年間付き合っていた彼(吉田って言ってた気がする)に先程フラれてしまい腹いせに一番近くにあったこのバーで自棄酒をしていたらしい。『彼女にフラれた時に初めて来た店』がここだという俺にとっては、他人とは思えなかった。  彼女は俺に話すことで、少しでも心が軽くなっただろうか。 「彼にはもう彼女がいるけど、私はどうやって彼に仕返しすれば良いって言うの? 強がったくせに実は引きずりまくった女、相手にする人なんていないんでしょ」 「あなたなら──」  大丈夫ですよ。そう言おうとして、言葉に詰まった。  綺麗な顔が、今にも崩れて泣いてしまいそうだったから。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加