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「……でね、彼ったら私がいるのに、内緒でキャバクラなんかに通っちゃってて! 結果、気に入った子が出来たみたいでフラレちゃった。泣くのは悔しいから、精一杯強がってきたんだけど」
女の話は長いっていうけど、まさかここまでだとは思っていなかった。
腕時計を見ると、午前零時の十分前を指している。
……話を聞くこと二時間。東京と大阪を飛行機で往復できる時間にあたる。
──だけど。
聞いた限りでは彼女は、一年間付き合っていた彼(吉田って言ってた気がする)に先程フラれてしまい腹いせに一番近くにあったこのバーで自棄酒をしていたらしい。『彼女にフラれた時に初めて来た店』がここだという俺にとっては、他人とは思えなかった。
彼女は俺に話すことで、少しでも心が軽くなっただろうか。
「彼にはもう彼女がいるけど、私はどうやって彼に仕返しすれば良いって言うの? 強がったくせに実は引きずりまくった女、相手にする人なんていないんでしょ」
「あなたなら──」
大丈夫ですよ。そう言おうとして、言葉に詰まった。
綺麗な顔が、今にも崩れて泣いてしまいそうだったから。
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