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「毎日来てたら加奈子も大変だろ? 逃げたりしないから、毎日じゃなくてもいいよ」
貴方はそう言って笑った。
私はその言葉を無視して、毎日朝から晩まで、可能な限り貴方のベッドに寄り添った。
どんどん体調が悪くなっていく様子を、貴方は私に見られたくなかったのでしょう?
逆の立場なら私もそう言っていたと思う。
でも、私は貴方との時間を、そんな理由で一秒たりとも無駄にしたくなかった。
死に行く貴方の姿を目に焼き付けて、一生忘れないように刻み付けたかった。
「ごめんな、ずっと傍に居てやれなくて」
貴方はようやく私の意志を曲げられないことを悟って、観念したように言った。
「加奈子のおかげで、俺は満足して死ねる。……でも、加奈子を一人置き去りにしなくちゃならないことが気掛かりで仕方がない」
貴方は優しいから、いつだって私中心に考えてくれた。
「俺が死んだら、たくさん泣いた後で俺のことを忘れてくれ。泣いてくれなかったらちょっとだけ寂しいから、ちゃんと泣いてから忘れてくれよ」
貴方が優しいから、いつまでも傍に居たいと考えていた。
「君との思い出は、俺が全部持っていくよ。だから、俺よりいい男を見つけて幸せになってくれ」
貴方は先のことばかり考えた。
「わかった。わかったから、今だけは貴方を思わせて……」
私は今のことだけ考えた。
お互いに涙を流しながら交わしたキスは塩辛く、なぜか苦かった。
それから二日後、貴方は逝った。
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