偶然じゃなく必然

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アカリさんは眉間に皺をよせ、わずかに目を細めると、あっという間に私を押しのけて更衣室から出て行った。 ひとりになってからざわざわと鳥肌がたつ。 けれど、何事もなかったように振る舞いながら、自分のロッカーに浅田さんから貰ったライターとガスをしまう。 誰が見ているわけでもないのに。 その時、ひんやりとした空気を感じて気付く。 私、冷や汗かいてるじゃん……。 自分でびっくりするほどの脇汗の量。 脇の匂い、大丈夫かな? こんなんじゃお客さんに汗っかきのクサイ女だと思われてしまう……。 スプレーとか香水とか、持ってないや。 いや……実際に脇汗なんて、全然笑えない。 足元には色褪せたリップクリームが転がっている。 誰かの落とし物だろう。 誰からも必要とされない、見向きもされない。 拾って捨てることさえしてもらえない。 私はリップクリームを拾って、ゴミ箱に投げ捨てた。 なんだよ……。 すっかりビビっちゃってさ。 バカみたい。 私………バカみたい。
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