下積み

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私はストローを噛みながら、そんな事を考えていた。 ミノルさんは、浅田さんが注文した[ゴッドマザー]というカクテルをつくりながら、爽やかな笑顔で笑っていた。 なんて魅力的な笑顔だろう。 ミノルさんを見ていると、醜い自分に嫌気が差し、本当に情けなくなる。 私は気道と食道をギュッと誰かに掴まれたように苦しくなった。 首を掴まれ、宙ぶらりんのままジタバタ暴れる哀れな鶏。 私はしわくちゃでガサガサの指先を眺めた。 これが私……。 拳を握りしめて指先を隠してみたり、どうにか潤わないかと、グラスに付いた水滴で濡らしてみたりした。 浅田さんは、ロックグラスの中の氷を人差し指でクルクル回しながら、ミノルさんに冗談を言っている。 さっき頼んだばかりのはずのウイスキーは1/5程度しか残っていない。 ゴッドマザーもすぐに飲みきってしまうのだろう。 浅田さんは、手をモジモジさせている私に気付き、ロックグラスに人差し指を突っ込んだまま、私の指先に視線を落とした。
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