美しきサイボーグ

4/12
前へ
/720ページ
次へ
何時間でも見とれていたいが、あいにく今日は時間がない。 私は使い古したダサいトートバッグから新しいバッグに携帯と財布を手早く移し替えた。 そして、そのまま古びたトートバッグをゴミ袋の中に叩きつける。 芋虫だった頃のダサすぎる服も、全て詰め込んであるゴミ袋にだ。そして、バッグを肩に掛け、ゴミ袋を乱暴に手に取って玄関を出た。 雨上がりの爽やかな空気が私を包む。 近所のゴミ捨て場にゴミ袋を投げ捨てる。 思いっきり投げたゴミ袋は、美しく弧を描き、あらゆる家庭から出たであろうゴミの山の一部となった。 私の体にこびり付いていた錆(さび)が剥がれ落ちた気がした。 私が颯爽と歩き出すと、ふと風が吹いた。 いたずらな風は私の頬をなでて髪をなびかせた。 せっかくセットしたのに…… 髪が唇に張り付いてしまった。 グロスを厚く塗りすぎたせいだ。 風の強い日にグロスを塗るのは止めよう。 私はまだまだオシャレの初心者なんだ。 イイ女になるためには、日々勉強。 美しさを手に入れたからといって、努力を怠ってはいけない。 バッグの中からティッシュを出し、歩きながらグロスを拭き取った。 急がなければバスに乗り遅れてしまう。
/720ページ

最初のコメントを投稿しよう!

197747人が本棚に入れています
本棚に追加