何万光年先への想い

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 新たに迫り来る波と既に砂を浚(さら)い終え、きびすを返す波。双方が互いに干渉しあって海は唸りを上げる。波は轟き、白く小さな気泡をつくる。渦を巻く波は浜辺にある砂をその流れへと誘い、だんだんと薄く延びて遠くへ辿り着こうとする。一重となり厚みを無くした波は少しでも遠くの砂を浚い、サーッという軽い音を立てながら海へ帰って往く。  そして次に迫り来る波とぶつかり再び海は唸る。  いつまでもいつまでも、一定のリズムを刻みながら唸り続ける。その永遠のループは地球が終わるその日まで続くのだろう。まるで地球の鼓動を感じているようだ。その唸りは、海が唄っているような気がした。  海が唄う声以外は何も聞こえない。  蝉の鳴き声も、国道を走る車の騒音も、どこか遠くで光る花火の音さえも、この場所には届かない。辺りは静寂そのものだ。その静寂を打ち破るかの如く、断続的な海の唄声が規則的に夜の空に響いた。  水平線に浮かぶ島々の、夜の人工的な光が水面を照らす。水面で反射する遠くの街灯りは、風になびくカーテンの様に海面で揺れている。  灯台も見あたらず、月明かりの届かないこの海域は、遠くの街灯りだけではどうも心許ない。海を照らすには少し力が及ばない。  十分な静けさと暗さを帯びたこの海岸線は、よりいっそう気味が悪かった。  手で足元の砂を掴めば、少し尖(とが)った石や貝殻の入り混じった砂が手の中で感じれる。  辺りが暗くてよくは分からないが、ゴミと呼べるモノはあまり見られず、この砂浜は比較的綺麗な砂浜と言えよう。  "白浜"という言葉がよく似合う。目が暗闇に慣れた今、この砂浜は僅かではあるが白く見えた。  砂の冷たさや吹き付ける潮風が気持ち良い。潮の匂いが鼻をくすぐり、夜風は肌を掠(かす)め髪を撫でる。  腰を下ろして足を伸ばし、手は後ろで地面につけて体を支えた。顔を上げ空を見上げる。だらんと力無く垂れる頭。遂には体を支える手も疲れてきて僕は砂浜に寝転んだ。  腕を枕にして夜空を見る。背中に感じるひんやりした砂が気持ち良い。  これぞ自然のクーラーと言うものか。全身で感じる砂浜はそれ程までに身体の熱を冷ましていった。
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