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暫(しばら)くの間、仰向けになって星空を眺めた。
砂と夜風のひんやりとした冷たさがだんだんと浸透してきて、汗ばんでいた僕の身体は少し寒気を覚えるほどまでになった。
こんなに落ち着いて夜空を眺めた事なんてこれまでにあっただろうか。
夏の星空がこれほど明るいことを僕は知らなかった。まだ昼間の熱を残した夜の大気も、夜の海岸線では少し寒くもあることすら僕は知らなかった。
だから多分、ゆっくりと夜空を眺めた事は、僕はこれが初めてだと思う。
それは、刹那の出来事だった。一本の光の筋が夜空に現れた。本当は一個の光が流れた、という方が正しい描写なんだろうけど、ほんの一瞬の出来事だったので僕の目には光の筋が何もないところから急に現れたように見えたのだった。
まぎれもなく"流れ星"だった。
僕は今日、初めて流れ星を見た。
そもそも、僕は流れ星を見たことがあると思っていた。何故かは分からないが、確かにそう信じていた。
流れ星を見たことがあるなんて錯覚はどこから生まれたのだろうか。イメージだけが先行し、いつの間にか嘘の現実を見させたのかもしれない。もしくは、流れ星を見たことがあるなんてことは普通だ、という変な固定観念がそうさせたのか。
多分そうなのだろう。
流れ星を見たことがないことを恥ずかしい、とは思わないけれど普通は見たことあるもんなんだ、という考えは持っていたんだと思う。
そして、目を凝らして夜空を見上げていると、もう一つ、光の粒が流れた。今度は一本の光の筋ではなく、始点と終点を区別して見極めることができた。
確かに"流れ"星だ。光の粒が残像を残しながらとても素速くスライドしていくのが見えた。
あれは光の粒が流れたと表現する以外ないのでは、と思えた。ただし、緩流ではなく急流。あらかじめ始点を知っておかないと目で追うことすら困難な速度。
僕の場合、二度目は頭の隅に流れ星を予測しながらの事もあり、星が"流れ"ていることを確認できたが、普通の場合はそうもいかない。
夜空を何となく眺めながら、ふと流れ星なんかが現れても、僕の一度目の様になるだけだ。
あっと言う間だった。その言葉通り、「あっ」という言葉が自然に発せられただけだった。
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