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彼は礼儀正しくいただきますと声を出して食べる。
上手い上手いと箸がドンドン進んで行く中、僕はある事に気がつく。
…皿の上の赤い物。
横目で観察しながら見て居ると明らかに避けて食べてる。
「君さ嫌いなの?」
箸でそれを指しながら聞くと彼は身体をビクリと震わせた。
どうやら図星で、黙ったまま俯いた。
「ねぇ嫌い治しなよ」
「いや…これだけは」
冷や汗ダラダラ流して小さくなる。
僕はそれを観察して口元が綻ぶ。
しばしの沈黙。
そしてそれを打ち破ったのは彼だった。
「倫理が僕の名前呼んでくれるなら食べる」
いきなり何を言い出すのかと思えば…そう言えば僕は彼の名前を知らなかった。
「ねぇ君名前は?」
「言っただろ!」
いや全然知らないし、聞いて無い。
僕が首を振ると彼は名前を言った。
「犀霞(さいか)だよ」
「犀霞、早く食べなよ。トマト」
そう言うと彼はトマトの様に顔を赤らめパクリと口に入れ水で流し込んだ。
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