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それは高二になって、突然の事だった。
「和巳…今までありがとうな。」
不意にベランダで光司は呟いた。
「俺さ…転校すんだ。」
「え?!」
いや、嘘だろう。
落ち着け、落ち着け、俺!
「まぁた、そんな嘘ばっか…」
「…お前とは…短い付き合いだったな、色々あったけど、ありがとう。」
光司の瞳にキラリと涙が光る。
「そんな…俺…何時もお前が性格悪いとか、根性曲がってるとか色々考えてたのに…」
俺の瞳にも涙が浮かぶ。
「…そか。そんな事考えてたか…」
「…へ?」
隣を見ると光司の姿は既になかった。
「また嘘かよ!」
俺は後を追いかける。
スラリとした光司の身体は身軽に廊下を走り抜ける。
俺もスピードを上げる。
「つっかまえたっと!!」
二年一組の教室の前で捕まえると、不意に光司の身体から力が抜けた。
†††
グラリと力が抜けた光司の身体は、音をたてて倒れた。
「おい!光司!何やって…」
「光司!!」
教室から晃が叫びながら、飛び出す。
「晃??」
「光司!光司!意識あるか?」
倒れて血の気の失せた、光司の頬をピシャリと叩く。
「…晃…」
「怪我はないか?」
「…多分…」
晃は軽々と光司を抱き上げる。
「…晃?」
「和巳、保健室行くから、先生に伝えといて。」
「…あ…ああ…」
俺は呆然としたまま、二人を見送った。
†††
そのまま、光司は教室には戻らなかった。
俺はそわそわしながら、主のいない光司の席を見つめていて、先生に怒られた。
休み時間に、晃を捕まえる。
「…晃!」
「…和巳か、どうした?」
「…光司…」
「ああ、早退した。」
「早退?!」
晃は一瞬、何か言いたそうに唇を動かしたが、プイとそっぽを向いた。
「和巳…」
「…何?」
「まぁ…その…あいつ、身体が生れつき弱いからさ…無理はささないでくれよ?」
そっぽ向いたままの晃の声は、何だか泣いている様で。
哀願されている様で、俺はただ頷くしか出来なかった。
†††
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