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その次の日、光司は何もなかった様に学校に来た。
「五十嵐が旦那いなくて淋しがってたぞ?」
クラス一のお調子者の八代がからかい口調でそう言うと、珍しく光司は吹き出した。
「何?俺って和巳の旦那?…女房な訳?こいつ。」
「そーだよ!いっつもラブラブじゃん!!」
「マジキモいんだけど…」
そう言いながらクスクス笑う。
「和巳はどーな訳??こんな事言われて。」
「えっ…俺?…いや…そんな…」
「はいっ!カップリング成立!!」
八代の声が高らかに響く。
俺達は夫婦になってしまった模様だ。
光司はクスクス笑ってた。
「けど俺ってまだ結婚出来る年齢じゃないんだけど?」
そう言いながら笑っていた。
†††
俺のあだ名は「奥さん」になった。
「旦那さん」光司は何もなかった様に黙々と勉強していた。
†††
さっきポツリと聞こえない様に呟いた光司の言葉が頭から離れない。
「どーせ、俺結婚出来ないし。」
その言葉が何回もグルグル頭を回っていて、また先生に叱られた。
†††
俺と光司の夫婦コンビは学年中の噂になっていた。
光司は気にする訳でもなく、「旦那さん」と呼ばれても「ほい」と普通に答えていた。
それが何だか光司が皆の輪の中に溶け込んだみたいで、俺は嬉しかった。
ただ「奥さん」と呼ばれるのは恥ずかしかったのだが。
†††
夏を過ぎた辺りから、時折、光司は身体の具合を悪くして、休む事が多くなった。
そんな時は「奥さん」の俺がプリントを届けに行ったりしてた。
光司と俺の家は、意外にも遠くなかったし、調度帰り道の途中だった。
ピンポーン。
「嫁か?」
「…その呼び方さぁ。止めてくんない?マジで。」
「今更公認じゃん。」
「公認とかって…」
「プリント。」
「はい。」
「よく出来た嫁だ。」
「だーかーらー!」
「上がってけ、嫁。誰もいないし、暇だ。」
スリムのジーンズに包まれた足は、女子が泣いて羨ましがる、長さと細さだ。
俺の短い足なんかとは比べ物にならない。
つーかルックスだけなら、光司のが嫁だろう。
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