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太陽が西へ徐々に傾き始め、木々の影が帰宅をためらう子供達の切なさを写し、それを代弁してるかのような烏の鳴き声と共に夕暮が訪れた。
少しにぎわっている住宅街から離れた所にある一件の家。
その家は二階建てで 塗装が清潔感に溢れた白と水色で夏らしさを感じさせる。
その家の二階の南側の部屋で紗絵は一人 ベッドの上で寝るわけでもなく ただ何となくボーっと寝そべっていた。
紗絵は白昼に出会った少年の顔をふと思い出した。
自分の事を危険を省みずに命がけで救ってくれ、その今にも飲み込まれそうなまでに深く そして美しい黒真珠のペンダントを落としていった その少年。
その感謝と賞賛の念は募るばかりで消化されることもなく、ただ思い募るだけであった。
(ちゃんとお礼言わなくっちゃ!
ペンダントだって返さなきゃ)
「ワン! ワン!」
ベッドの脇から 小さめの なんとも可愛らしい子犬が甘えるようにヒョコッとのぼってきた。
「どうしたの~ アン?」
紗絵はその愛犬をひょいとひざに置き 笑顔で話しかけた。
「キャンキャン!!」
アンはとにかく元気に彼女のひざの上でぴょこぴょこと飛び跳ねていた。
「アン、散歩行こっか♪」
そういうと紗絵はアンを抱いて 夕陽の差し込む自室を後にし、階段を降っていった。
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