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長かった夕方もあと数分で終わりを告げることか もう空はすっかり暗紫に包まれていた。
天候的な影響なのか はたまた何かの前兆なのか、猛暑の余韻を一片も感じられないほどに不思議と冷ややかな夜風が街へと訪れていた。
「風、出てきたね。」
紅助は特に深い意味はなく エンドへの雑談を旨に話し掛けた。
「…………。」
「……エ…エンド?」
エンドは静かに黙し、神妙な雰囲気をじわりと漂わせていた。
「いや……なんかな…。」
紅助も僅かながらおぞましい何かを感じ取ってはいた。
ただ それは言わば第六感よりもかなり微弱で 普段であれば 気のせいと皆が思う感覚であった。
「…やっぱり 何か変だよ……ね。」
二人はその不穏な雑感にうんともすんともピンと来ないので、変に薄気味悪くなった。
そんな心持ちでふと前を見ると、一人の少女がこちらに向かって小走りしてきた。
正確に言うと、散歩中の機敏な子犬に翻弄され 走っている少女がいた。
「あっ……。」
彼女もようやく紅助の存在に気付く。
二人の視線がお互いに交差した時、日は空の端倪へと姿を消し 夜が訪れた。
(ゴオォォッ………)
「ぐッ…!」
紅助はすぐに理解した。
この感覚が『あれ』である事を。
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