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「ん……えっ……あれ…?」
紗絵は気絶から覚めると 自分の周囲に集る人々の様子とその野次馬の合間から見える木っ端微塵のグランドピアノ そして少し前に起きたであろう僅かな記憶から 自分の身に何が起きたかがおおよそ理解できた。
「大丈夫かい? 君」
少年に残りの処置を頼まれた中年の男性が心配そうな表情で近付いてきた。
「あ……はい。怪我は多分無いかと…。」
「そうか……なら良かったよ。
君を助けた男の子が何かよく分からないけど、走り去ってしまってね。
けどあの子が突っ込んで来なきゃ、あのピアノの下敷きだったからね。
いやぁ 実に勇敢な少年だったねー。」
(あの…男の子………?)
紗絵は自分が少年によって突き飛ばされてた一瞬、その少年の表情と その勇ましく燃え上がってるような瞳がまだうっすらと紗絵の瞳の奥深くに深い温かみとして残っていた。
たった数十秒の間に色々ありすぎたせいか、少し放心状態に陥っていると、ピアノを運んでいた業者が2.3人で駆けつけてきたので、とりあえず無事であることを伝えた。
少し震えている両足に力を入れ ようやく立ち上がると、
ジャラ……
「ん……?」
どうやら自分の膝元にあったらしい 小さな黒真珠のペンダントが地面に落ちた。
「これ……あの男の子の…かな?
見つけて返さなくちゃ。」
彼女はそのペンダントをなくさないように自分の胸ポケットに入れた。
(………あっ。)
知らぬ間に野次馬がとんでもない数になっており、紗絵はその場にいるのが無性に恥ずかしくなり、彼女もまた少年と同じように人だかりを早々と抜け 赤面しながら急ぎ足で帰路についた。
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