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「やべっ、ケータイ忘れた」
ポケットを探りながら、思わずぽつりと一言漏らした。
大してケータイを忘れたからと言って困ることはあまり無いけれど、どうやら依存症らしくてどうも不安になる。
信号停車していた原チャリのエンジンを回す。
青のランプが灯り、普通は直進するはずの交差点を左折した。
彼女のマンションは高層で独り暮らしにはかなり高い値段だが、それでも彼女は独りで住んでいた。
もちろんオートロックも完備しているわけで。
(…なんか、情けないなぁ…)
俺は、オートロックの扉の前でうんざりした。
彼氏である俺は、彼女の家まで行くのにオートロックなんざ何の障害にもならない。
なのに、多少げんなりしながら扉をくぐると、何だか犯罪者が侵入しているような気分を味わった。
違う違う。
俺は犯罪者じゃないっつーの。
エレベーターの前で1人の男が到着を待っていたので、妙にしゃきんとして斜め後ろで止まった。
その男は、たぶんマンションに家族と住んでいるんだろう。
スーツとスーツケースがかなり似合っていて格好良い。
…無性に、腹がたった。
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